「もっと作れ。」
製造現場で働いていると、本部からそんな要求が来ることがありました。
もっと生産数を増やしてほしい。
言っていることは分かります。
でも、現場で実際に働いている人たちを見ていると、私はいつも考えていました。
「もっと作るために、残業を増やす。それしか方法はないのだろうか」
現場で汗を流しているのは、人です。
人に無理をさせる前に、仕事の流れの中に変えられるところはないのか。
私は、そこを探すことにしました。
「そんなことをしても変わらない」
改善に取り組み始めた頃、周囲からいろいろなことを言われました。
「そんなやり方は聞いたことがない」
「今までこの方法でやってきた」
「そんなことをしても変わらない」
新しいことを始めようとすると、すぐに賛成してもらえるとは限りません。
現場には、それまで積み重ねてきた仕事のやり方があります。それを変えるのですから、抵抗があるのも当然だったのだと思います。
それでも私は、現場を歩いて作業を見るようにしていました。
そこで気になったのが、段取り替えです。
製品が変わるたびに作業が止まります。
そして、必要な部品を取りに行く。
その間、仕事の流れも止まってしまいます。
「ここを変えられないだろうか」
そう考えました。
今振り返ると、改善というのは、こういう小さな「気づき」から始まることが多かったように思います。
誰かから改善しろと言われたからではありません。
目の前で起きていることを見て、「これは何とかならないか」と気づく。
そして、気づいたら行動をとる。
私の場合は、それが段取り替えでした。
人を急がせるのではなく、先に準備しておく
私が考えたのは、キッティングでした。
作業が始まってから必要な部品を取りに行くのではなく、必要な部品や工具をあらかじめ準備しておく。
やることだけを聞けば、それほど特別なことには思えないかもしれません。
でも、当時の現場では新しい取り組みでした。
それまでやってきた方法を変えるのですから、
「そんなことをしても変わらない」
という反応が出るのも分かります。
私自身も、最初から結果が分かっていたわけではありません。
だから、
「一度やってみよう」
という気持ちでした。
やってみて駄目なら、また考えればいい。
ただ、何もしないまま「できない」と決めてしまうのは違うような気がしていました。
「もっと頑張れ」ではなく、仕事の流れを見る
この改善で私が見ていたのは、人の頑張りではありませんでした。
仕事の流れでした。
生産数を増やしたいとなると、つい「もっと早く」「もっと頑張って」と人に求めてしまいます。
けれど、現場の人がすでに頑張っているとしたら、さらに頑張ってもらうことには限界があります。
それよりも、作業が止まっている時間はないか。
人が歩いている時間はないか。
先に準備しておけば、止めなくてもいい仕事はないか。
私は、そういうところを見るようにしていました。
後になって考えると、これはTOCの「一番詰まっているところを見る」という考え方にもつながっていたのかもしれません。
ただ、そのときの私にとって重要だったのは、難しい理論ではありませんでした。
目の前で、部品を取りに行くために作業が止まっている。
まず、そこを何とかしてみる。
それだけでした。
残業を増やさず、生産数は約115%になった
キッティングを取り入れ、段取り替えを改善していきました。
必要なものを先に準備しておけば、製品が変わるたびに部品を取りに行く時間を減らすことができます。
少しずつ、仕事の流れが変わっていきました。
そして結果として、生産数は以前の約115%になったと記憶しています。
残業を増やしたわけではありません。
これは私にとって大きなことでした。
本部からは「もっと作れ」と言われる。
それに対して、単純に残業を増やして応えるのではなく、現場の仕事の仕方を変えることで応えることができたからです。
もちろん、私一人でできたことではありません。
最初は半信半疑だった人たちも、実際に一緒にやってくれました。
新しい方法を試すというのは、提案する側だけでなく、それを実際にやる側にも負担があります。
今振り返ると、そこは忘れてはいけないところだと思います。
みんなを集めて言った「ねっ!できたでしょ。」

結果が出たあと、みんなを集めてミーティングをしました。
最初から全員が「できる」と思っていたわけではありません。
「そんなことをしても変わらない」
そんな声もあったところから始まった改善でした。
でも、実際にやってみた。
仕事の流れが変わった。
そして、生産数も増えた。
その結果をみんなの前で話したとき、私はこう言いました。
「ねっ!できたでしょ。」
自分が正しかったと言いたかったわけではありません。
私一人の成果でもありません。
実際に現場で動いてくれた人たちがいたから、結果が出たのです。
だからあの言葉には、
「みんなでやったら、本当にできたね」
そんな気持ちがあったのだと思います。
気が付いたら、行動をとってみる
定年を迎える今になって振り返ると、この改善から私が学んだのは、特別な改善手法だけではなかったように思います。
現場には、毎日の仕事の中で「ちょっとおかしいな」と感じることがあります。
わざわざ部品を取りに行っている。
その間、設備が止まっている。
昔からこうしているから、今日も同じようにしている。
そういうものは、毎日見ているうちに当たり前になってしまいます。
私も、すべてに気づけたわけではありません。
うまくいかなかった改善もありました。
それでも、何かに気が付いたときには、できる範囲で行動をとってみる。
今回のキッティングも、そこから始まりました。
「もっと作れ」と言われたから、人にもっと頑張ってもらう。
それだけが答えではありませんでした。
人を急がせる前に、仕事の流れを見てみる。
そこに、変えられるものがあるかもしれません。
あのときの私は、それを段取り替えの中に見つけました。
そして、半信半疑だったみんなと一緒にやってみた結果、数字が変わりました。
だからこそ、みんなを前にしたとき、自然にあの言葉が出たのだと思います。
「ねっ!できたでしょ。」
今でも、あのときのことを思い出すと言いたくなります。
現場には、自分たちで変えられることが、まだ残っているのかもしれません。



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