ある時期、部下の仕事ぶりに少し気になる変化が出てきました。
以前よりミスが増えている。
仕事をお願いしても、レスポンスが少し遅い。
一つひとつを見れば、大きな問題ではなかったのかもしれません。
誰にでもミスはありますし、仕事が重なれば対応が遅れることもあります。
ただ、それが続くと、管理する立場としては気になります。
「何かあったのかな」
そして、私の頭にはもう一つの言葉も浮かんでいました。
「やる気が落ちているのかな」
長く現場にいると、どうしても経験から相手を見てしまうことがあります。
しかし今振り返ると、このとき私が見ていたのは、
「ミスが増えた」
「レスポンスが悪くなった」
という、目の前に現れた結果でした。
その人の中で何が起きているのかまでは、まだ分かっていなかったのです。
部下を育てるとは、どういうことなのでしょう。
管理者は、どこまで教えればいいのでしょう。
今回は、1on1を通して私自身が考えることになった、「人を育てる」ということについて書いてみたいと思います。
「やる気がないのかな」と感じた小さな変化
最初に気づいたのは、仕事の変化でした。
ミスが増えてきた。
そして、仕事のレスポンスが以前より悪くなってきた。
現場では、こうした小さな変化が気になるものです。
機械でも、いつもと違う音がすれば、
「何かおかしいな」
と感じます。
人を機械と同じように考えるつもりはありませんが、普段と違う変化には、何か理由があるのではないかと思いました。
そこで私は、担当している仕事について聞いてみました。
「進捗が少し遅れ気味だけど、現状で何か問題はありますか」
何か困っていることがあるのか。
仕事量に問題があるのか。
進め方が分からないのか。
まず現状を把握したいと思ったのです。
現場ではできていた「事実を見る」が、人になると難しかった
改善活動でも、最初にやることは現状を見ることでした。
何が起きているのか。
どこで止まっているのか。
思い込みではなく、まず事実を見る。
私は現場では何度もそうしてきました。
ところが、人のことになると少し違いました。
「ミスが増えた」
「レスポンスが悪くなった」
そこから私は、
「やる気がないのかな」
と考えていたからです。
ミスやレスポンスは、私が実際に見た事実です。
しかし、
「やる気がない」
は、私の判断です。
今になって考えると、この二つを分けて考えることが大切だったのだと思います。
1on1で、もう少し深く話してみた
「現状の問題は何かありますか」
そう声をかけただけでは、私自身、まだ十分ではないと感じていました。
ミスが増えたことも、仕事のレスポンスが悪くなったことも、目に見えている結果です。
でも、その結果だけを見て、
「やる気がない」
と決めつけてしまっていいのだろうか。
本人は、仕事の目的や進め方をどこまで理解しているのだろう。
私が伝えたつもりになっているだけではないだろうか。
そこで、1on1で時間を取り、担当している仕事について、もう少し詳しく話すことにしました。
私が一方的に、
「もっと早く」
「ミスを減らして」
と言っても、おそらく何も変わりません。
大切なのは、なぜこの仕事をするのか、何を期待しているのかを理解してもらうことだと考えました。
話をしていく中で、少しずつこちらの考えを理解してもらえたように感じました。
そして私自身にも、一つの気づきがありました。
人を動かそうとするのではなく、本人が自ら気づくきっかけをつくる。
それが管理者として大切なことなのではないか、と。
「伝えた」と「伝わった」は違う
管理者になると、どうしても「伝えたつもり」が増えてきます。
朝礼で話した。
メールを送った。
会議でも説明した。
本人にも指示した。
だから、
「分かっているはずだ」
と思ってしまいます。
私にも、そんなところがありました。
しかし1on1で詳しく話してみると、説明するということと、相手が理解するということは、同じではないと改めて感じました。
これは、以前に上司から教えていただいた、
「人を信じても、仕事は信じるな」
という言葉にも通じるように思います。
人を疑うということではありません。
仕事について、お互いの認識を確認する。
どこまで進んでいるのか。
何に困っているのか。
こちらの考えは、本当に伝わっているのか。
確認することも、コミュニケーションの一つなのだと思います。
答えを教えるだけなら早い
管理者には経験があります。
若い頃から何度も失敗し、いろいろな問題にぶつかってきました。
そのため部下が困っていると、
「それなら、こうすればいい」
と答えが見えることがあります。
教えた方が早い。
自分でやった方がもっと早い。
私も、そう感じることがありました。
特に仕事が忙しいときは、部下が考えるのを待っている余裕がありません。
「こうしてください」
と言ってしまった方が、その場では仕事が進みます。
でも、それを続けたらどうなるのだろう。
そんなことも考えるようになりました。
何かあるたびに上司が答えを出す。
部下はその答えを待つ。
そしてまた問題が起きれば、
「どうすればいいですか」
と聞く。
これでは、本人が考える機会を、管理者自身が奪ってしまうことにもなりかねません。
「自分の仕事に旗を立てる」という考え方
部下を育てることについて考えていると、私が大切にしてきた一つの考え方に行き着きます。
それが、
「自分の仕事に旗を立てる」
という考え方です。
少し変わった表現かもしれません。
私が考える「旗」とは、
「自分は何をするためにここにいるのか」
という、自分なりの仕事の目的です。
まず管理者自身が、自分はこのチームをどうしたいのか、何を大切にして仕事をするのかを考える。
そして、それを部下に押しつけるのではなく、メンバー一人ひとりにも、
「自分はこのチームで何をするのか」
「自分の仕事は何につながっているのか」
を考えてもらう。
私は、そこが大切なのではないかと思っています。
部下に、
「ミスを減らしてほしい」
「もう少し早く仕事をしてほしい」
と伝えることはできます。
でも、それだけでは管理者が求めていることを伝えただけです。
本人が、
「なぜ、この仕事をするのか」
「自分は何を期待されているのか」
「では、自分は何をすればいいのか」
と考える。
そして、自分なりの答えを見つける。
それが、その人自身の「旗」になるのではないでしょうか。
1on1を振り返ってみても、私が本当にしたかったのは、部下をこちらの思うように動かすことではなかったように思います。
本人が自分の仕事について考える。
そして、自分で何かに気づく。
そのきっかけをつくりたかったのかもしれません。
今になって思えば、管理者が旗を立てて部下を引っ張るだけでは、強いチームにはならないのでしょう。
一人ひとりが、自分の小さな旗を持つ。
そんなチームの方が、私は強いと思っています。
人を育てるより、考える力を育てる
30年以上仕事をしてきて、今になって「人材育成」という言葉について考えることがあります。
「人を育てる」
よく使ってきた言葉です。
でも、人は本当に他人が育てられるものなのでしょうか。
私自身を振り返ってみても、上司から多くのことを教えていただきました。
しかし、今でも自分の中に残っているものは、答えそのものだけではありません。
失敗したこと。
悔しかったこと。
上司から言われた一言。
現場で「なぜだろう」と考えたこと。
自分でやってみて、初めて分かったこと。
そうした経験から、自分なりに気づいたことの方が、長く残っています。
だとすれば、部下も同じなのかもしれません。
管理者が部下を変えるのではない。
本人が自分で気づき、自分で考え、そして自分で動き始める。
私たち管理者にできることは、その**「気づくきっかけ」**をつくることなのではないでしょうか。
1on1は「答えを渡す時間」ではないのかもしれない

今までの経験を振り返ると、1on1についても考えさせられます。
1on1をすれば、人が育つわけではありません。
質問の仕方を覚えれば、部下が変わるわけでもありません。
大切なのは、その時間を何のために使うのかだと思います。
仕事の進捗を確認する。
困っていることを聞く。
こちらの考えを伝える。
そして、本人の考えも聞く。
そのやり取りの中から、
「そういうことだったのか」
「だったら、こうしてみよう」
と本人が気づくことがある。
その小さな気づきを積み重ねていくことが、考える力につながっていくのかもしれません。
管理者がすぐに答えを言わず、一緒に考える。
簡単なようですが、実際には難しいことです。
私も、いつもできていたわけではありません。
それでも、
「答えを教える前に、本人が考える余地を残せないだろうか」
そう考えるだけでも、部下との接し方は少し変わるように思います。
まとめ
部下のミスが増え、仕事のレスポンスが悪くなった。
私は最初、
「やる気が落ちているのかな」
と感じました。
しかし、ミスが増えたことと、やる気がないことは同じではありません。
そこで仕事の現状を確認し、1on1で担当している仕事について詳しく話しました。
その経験を振り返って、今の私が感じていることがあります。
人を動かそうとするのではなく、本人が自ら気づくきっかけをつくる。
管理者がすべての答えを持つ必要はないのかもしれません。
むしろ、
「どう思う?」
「何が問題だと思う?」
「次はどうしてみようか?」
と、一緒に考える。
その時間の中で、本人が自分の仕事に小さな「旗」を立てる。
それが、人材育成の一つの形なのではないかと、今は思っています。
おわりに
もし今、部下を見ながら、
「最近、やる気がないな」
と感じている方がいたら、その判断を少しだけ横に置いてみてもいいかもしれません。
やる気の問題なのか。
仕事の目的が十分に伝わっていないのか。
何かにつまずいているのか。
それとも、本人自身も何に困っているのか分からないのか。
私にも、すぐには分かりませんでした。
だからこそ、話してみる。
そして、一緒に考えてみる。
明日、部下に答えを一つ教える代わりに、
「あなたは、どう思う?」
と一度だけ聞いてみる。
そこから本人の小さな気づきが生まれたなら、それで十分なのかもしれません。
私も、そんな管理者でありたかったと思います。
🍀 今日のひとこと
人を動かそうとするのではなく、自ら気づくきっかけをつくる。
📖 今日の学び
人を育てるというより、考える力を育てる。
管理者が答えをすべて教えるのではなく、本人が自分で考え、自分で気づくための時間をつくる。
その小さな積み重ねが、いつか「自分の仕事に旗を立てる」ことにつながるのかもしれません。



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