先日、私宛てに介護保険証が届きました。
封筒を開けて、中に入っている「介護保険被保険者証」を見ました。
「そうか。65歳になるんだな」
もちろん、自分の年齢は分かっています。もうすぐ65歳になることも、ずっと前から分かっていました。
それなのに、自分の名前が書かれた介護保険証を手にすると、少し感じ方が違いました。

考えてもいなかったこの時が、急に実感としてわいてきました。
65歳になる。
介護保険証は初めて見るものではありません
介護保険について、私が何も知らなかったわけではありません。
むしろ、介護保険証はこれまで何度も見てきました。
2年前に亡くなった母の介護で、ずいぶんお世話になったからです。
介護保険証は、要介護・要支援認定の申請や更新、介護サービスを利用するときなどに必要になります。
母の介護をしていたときには、そうした手続きを実際に経験しました。
ですから、今回自分の介護保険証が届いても、
「これは何に使うものだろう?」
と思ったわけではありません。
どんなときに必要になるものなのかは、あらかた分かっています。
ただ、これまで見ていたのは母の介護保険証でした。
今回は違います。
自分の名前が書かれています。
同じ介護保険証なのに、母のものを見るのと自分のものを見るのとでは、やはり気持ちが違いました。
母の介護では、家の改修にも使いました
母の介護では、介護保険を使って家の改修もしました。
家の中には手すりを全面的に付けてもらいました。

年齢を重ねて足腰が弱ってくると、今まで何でもなかった場所が危なくなります。
立ち上がるときや移動するとき、つかまるところがあるだけでも違います。
そして、もう一つ大きかったのが玄関でした。
駐車場から玄関に入るところが階段になっていました。
母が車いすを使うようになると、この階段が問題になります。
そこで階段だったところをスロープにしてもらい、車いすでも通れるようにしました。
これは本当に助かりました。
母はデイサービスを利用していたので、送り迎えがあります。
車いすで玄関から駐車場まで移動するたびに階段があったのでは大変です。
スロープにしてもらったことで、デイサービスの送り迎えがずいぶん楽になりました。

「介護保険」と聞くと、保険料や認定、給付といった難しそうな言葉が並びます。
でも、私の記憶に残っている介護保険は、そういう言葉ではありません。
家の中に付けてもらった手すりです。
駐車場から玄関までのスロープです。
そこを通る母の車いすです。
そして、デイサービスの送り迎えです。
私にとって介護保険は、そういう日々の中にありました。
老人ホームに入居するときにもお世話になりました
その後、母が老人ホームに入居するときにも介護保険のお世話になりました。
自宅で介護していたころとは生活も変わりましたが、介護保険との関わりがなくなったわけではありません。
そのとき、そのときで必要な手続きをしました。
当時は母のことで精いっぱいだったと思います。
介護保険証も、必要だから出す。
書類が必要なら用意する。
手続きがあればする。
そんな感じだったのではないでしょうか。
そのころの私は、母の介護保険証を見ながら、
「いつか自分にも同じものが届くんだな」
などと考えてはいませんでした。
少なくとも、そんな先のことまで考える余裕はなかったように思います。
そして母は2年前に亡くなりました。
その母の介護で何度も手にした介護保険証。
今度は自分の名前が書かれたものが、私のところへ届きました。
母の介護を妻と二人でできたこと
母の介護を振り返ると、介護保険に助けられたことだけではありません。
妻の存在も大きかったです。
私の母ですから、妻にとっては自分の親ではありません。
それでも妻は、自分の親のように母のことを気にかけ、介護をしてくれました。
そのことには、今でも感謝しています。
家に手すりを付けたり、玄関をスロープにしたり、デイサービスを利用したり、そして老人ホームへの入居を考えたり。
母の介護では、その時々でいろいろなことがありました。
介護は一人でできるものではなかったと思います。
妻と二人で協力できたことは、本当に良かったです。
もちろん、介護をしている最中は「良い思い出を作っている」などと考えていたわけではありません。
そのときは、そのときで必要なことをやっていただけです。
でも、母が亡くなって2年が経った今、振り返ってみると、妻と二人で母の介護をできたことは良い思い出になっています。
母の介護保険証を手にしていたころには、そんなことを考える余裕もなかったのかもしれません。
そして今、その介護保険証が自分の名前で届きました。
65歳という数字が急に現実になりました
65歳。
若いころの私から見れば、ずいぶん先の年齢だったと思います。
でも、自分がその年齢になってみると、本人はそれほど変わったつもりはありません。
64歳から65歳になったからといって、急に体が変わるわけでもありません。
朝起きれば、いつもの自分です。
それでも社会の制度の中では、65歳は一つの区切りになっています。
介護保険では、65歳になると第1号被保険者になります。
40歳から64歳までの第2号被保険者とは違い、65歳以上では、要介護・要支援の認定を受ければ、その原因を問わず介護保険サービスを利用できるようになります。
制度としてはそういうことなのですが、今回の私には、そんな説明よりも一枚の保険証のほうがずっと実感がありました。
「あなたも65歳になりますよ」
そう言われたような気がしました。
果たして、この保険証を使う日は来るのだろうか
自分の介護保険証を見ながら、そんなことを考えました。
母の介護を経験しているので、この保険証がどんな場面で必要になるのかは知っています。
要介護認定を受けるとき。
介護サービスを利用するとき。
家の改修が必要になったとき。
そして、施設での生活が必要になることもあります。
だからこそ、自分の保険証を見ていると考えてしまいます。
果たして、この保険証を自分のために使うときはあるのだろうか。
できれば使わずに済みたい。
少なくとも、使うとしてもずっと先であってほしい。
今はそう思います。
ただ、母の介護を経験した私には、「自分だけは大丈夫」とも言い切れません。
先のことは分かりません。
だからといって、今からその日のことばかり考えて暮らしても仕方ありません。
介護保険証が届いたからといって、昨日と今日で私自身が変わったわけでもありません。
ただ、自分もそういう年齢になった。
今回は、そのことを一枚の保険証に教えられたような気がします。
母の保険証から、自分の保険証へ
考えてみれば、年齢というのは誕生日の数字だけで実感するものではないのかもしれません。
定年を迎えたり、年金のことを考えたり、こうして介護保険証が届いたり。
一つひとつの出来事で、
「ああ、自分もここまで来たんだな」
と思うのでしょう。
母の介護をしていたころには、母のために介護保険証を持って手続きをしていました。
家に手すりを付けてもらい、玄関の階段をスロープにしてもらいました。
そのスロープを、母を乗せた車いすが通りました。
あのころは母のためだった介護保険。
2年が過ぎて、今度は自分の介護保険証が手元にあります。
時間はちゃんと進んでいるんですね。
65歳になることは分かっていました。
でも、分かっていることと、実感することは少し違うようです。
果たして、この保険証を使う日は来るのでしょうか。

今の私には分かりません。
もう一度、介護保険証を見ました。
とりあえず、なくさないように大切にしまっておきます。



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