前にも説明した。
マニュアルも渡した。
本人も「分かりました」と言った。
それでも、また同じところで止まる、固まる。
現場では、こういうことがありました。
機械の作業には、順番がやや複雑なものがありました。必ずメモを取るように教えていたのですが、残念ながら、間違えるのは同じ人が多かったように思います。
一度なら、それほど気になりませんでした。慣れていない仕事なら失敗することもあるし、初めてなら分からなくて当然です。
でも、二度、三度と同じことが続くと、教える側にも迷いが出てきました。
説明が悪かったのだろうか。
伝え方を変えた方がいいのだろうか。
もう一度、一緒にやった方がいいのだろうか。
部下を責める気持ちと、自分のやり方を疑う気持ちが、頭の中で行ったり来たりしていました。どちらか一方だけが正しい、ということでもなかったように思います。
答えが出ないまま、また同じ場面を迎える。そのたびに、こちらも少しずつ消耗していきました。

正直、イライラすることはありました
管理職を長くやっていると、部下の成長が思ったより遅いと感じることは、一度や二度ではありませんでした。
何度も教えたつもりなのに、また同じところでつまずく。そんなときにイライラしてしまうのは、正直なところ避けられませんでした。
ただ、そのイライラをそのまま部下にぶつけても、何も良くならない。それは、経験から分かっていました。
イライラの正体を考えてみた
イライラの正体は、「自分の思った通りに進まない」ことだったように思います。
管理者向けの研修資料にも、似た指摘がありました。自分の技能に自信を持っている管理者ほど、部下の能力の低さや経験の乏しさに不満を感じやすい、と。
つまり、イライラの原因は部下だけにあるのではなく、「自分の物差し」で部下を見ていることにもある。そう考えるようにしてからは、少し見え方が変わったように思います。
その場では対処せず、時間をおいて答えた
イライラしたとき、その場では対処しませんでした。
時間をおいてから、答える。そうしていました。
その時間で、もう一度考えたかったからです。
その場で言うと、感情が先に出てしまう。時間をおけば、何が問題だったのか、どう伝えればよいのかを、落ち着いて整理できる。そんなふうに思っていました。
「すぐに言わないのは、甘いのではないか」と思われるかもしれません。私自身、そう感じた時期もありました。
ただ、イライラしているときの言葉は、本当に伝えたいことより強くなりがちです。強く言えば、相手は萎縮します。そうなると、次からは分からないことも聞いてもらえなくなる。それでは、現場としては損をします。
ただし、止めるべき危険な作業は、その場で止めました。これだけは、時間をおかずにです。
「止まった」のか、「止めた」のか。この違いは、とても大きいと思っていました。事態が分かる人は、自分の判断で止めます。分からない人は、止められずに進んでしまい、機械の方が止まってしまう。そうなると、とんでもない大きな故障になることがありました。
だから、同じ「止まる」でも、危険なときや、このままだと大きな故障になるときは待たなかったのです。気持ちを落ち着けるのは、そのあとでした。
話は、いつも「先日の作業の件だけど」と切り出していました。場所は、立ち話のこともあれば、別室で面談のように向き合うこともありました。
時間をおいて、お互いに冷静になってから話すと、こちらの考えも、相手の考えも、よく分かってもらえたように思います。

人を責める前に、仕組みを見直した
同じことが続くと、つい「本人の意識が低いのでは」と考えたくなります。
でも、説明もした。マニュアルも渡した。それでも止まるのなら、こちらのやり方にも見直すところがあるのではないか。そう考えるようになりました。
実際に変えたのは、たとえば次のようなことです。
- 任せるとき、最終的にどういう状態になればOKなのかを、先に伝える
- 作業に入る前に、考えられる原因の想定を、3パターンほど挙げてもらう
自分では伝えたつもりでも、「どこまでやればOKか」が相手に伝わっていないことがありました。原因を一つに決め打ちして動いた結果、違う箇所をいじってしまい、さらなる故障につながることもありました。
最終的な状態を先に伝えておくと、本人も「そこまでやればいいのか」と分かります。途中で迷ったときも、ゴールに照らして考えられるので、勝手な判断で別の方向へ進んでしまうことが減りました。
原因の想定を複数挙げてもらうのも、同じ理由です。一つに決め打ちしてしまうと、外れたときに引き返せません。三つほど並べてもらえば、「まずここから確かめよう」と順番を考える余裕が生まれます。部下の考え方を知る機会にもなりました。
人の問題にする前に、伝え方や段取りで防げることが、思った以上にあったように思います。
管理者がたどり着くのは、結局ここなのかもしれません。人を変えようとする前に、仕組みを整える。

成長の速さは、人それぞれだった
早く伸びる人もいれば、時間はかかるけれど、一度覚えると安定している人もいます。得意な仕事も、伸びるタイミングも、人によって違います。
同じ物差しで並べてしまうと、見えなくなるものがあります。その人なりの進み方を見て、待つ。そして、任せられるところから任せていく。そういう関わり方が、結局は一番の近道だったように思います。
待つというのは、何もしないこととは違います。様子を見ながら、必要なときに声をかけ、できたところは認める。その繰り返しだったように思います。
私が見てきた範囲では、最初は遅いと感じた人でも、任せる範囲を少しずつ広げていくうちに、いつの間にか現場に欠かせない存在になっていることがありました。焦っていたのは、こちらだけだったのかもしれません。

イライラは、自分を見直す合図だった
部下の成長が遅いと感じて、イライラしている自分に気づいたら、まず仕組みを見直しました。人を責める前に、伝え方や段取りに足りないところがないかを確かめる。ただし、危険なときや大きな故障につながるときだけは、待たずにその場で止めました。
部下を変えるより、まず自分の見方を変える。これは、管理職を続けていて、だいぶ後になって分かってきたことです。


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